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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)11710号 判決 1998年5月18日

原告

松元麻紀

ほか一名

被告

野村友和

ほか一名

主文

一  被告らは、原告松元麻紀に対し、各自金一億〇一九七万八三三九円及びこれに対する平成四年一月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告松元多喜子に対し、各自金五三〇万円及びこれに対する平成四年一月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告松元麻紀に生じた費用の一〇分の九及び原告松元多喜子に生じた費用の五分の四並びに被告らに生じた費用の一〇分の九を被告らの負担とし、原告松元麻紀に生じたその余の費用及び被告らに生じた費用の一〇分の一を原告松元麻紀の負担とし、原告松元多喜子に生じたその余の費用を原告松元多喜子の負担とする。

五  この判決の第一、二項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

1  被告らは、原告松元麻紀に対し、各自金一億三七四八万四二一六円及びこれに対する平成四年一月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは、原告松元多喜子に対し、各自金六六〇万円及びこれに対する平成四年一月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告松元麻紀(以下「原告麻紀」という。)が普通乗用自動車の後部座席に乗車中、被告有限会社ワカサメタル(以下「被告会社」という。)が保有し被告野村友和(以下「被告野村」という。)が運転する普通乗用自動車に衝突され、負傷した事故に関し、原告麻紀及び原告麻紀の母親である原告松元多喜子(以下「原告多喜子」という。)が、被告野村に対しては民法七〇九条に基づき、被告会社に対しては自賠法三条に基づき、それぞれ損害の賠償を求めている事案である。

一  争いのない事実等(証拠により認定する場合には証拠を示す。)

1  当事者

(一) 原告多喜子は原告麻紀及び鳥本博美(以下「鳥本」という。)の母親であり、鳥本は原告麻紀の実姉であるが、本件事故当時は別居していた。

(二) 被告野村は、本件事故当時被告会社の従業員であった。

2  交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

(一) 日時 平成四年一月三一日午後九時五五分ころ

(二) 場所 大阪市平野区加美東四丁目一六番八号先交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 加害車両 被告野村運転にかかる普通貨物自動車(なにわ四六は二五三四)

右保有者 被告会社

(四) 被害車両 鳥本運転にかかる普通乗用自動車(和泉五二す一〇九八)

3  原告麻紀の負傷及び治療経過

原告麻紀は本件事故直後緑風会病院にて診察を受け、第五頸椎椎弓骨折、頸髄不全損傷、顔面挫創、両肩打撲、頭部打撲、骨盤骨折の疑と診断され(甲三ないし五)、続いて大阪大学医学部附属病院特殊救急部において、頸髄損傷等と診断された(甲七、八)。

その後、原告麻紀は以下のとおり合計三五〇日にわたり入院加療を受けた(甲三ないし三二)。

<1> 大阪大学医学部附属病院 平成四年二月一日から同月一二日

<2> 緑風会病院 平成四年二月一二日から同年四月一四日

<3> 星ヶ丘厚生年金病院 同月一四日から平成五年一月一五日

4  原告麻紀の後遺障害

原告麻紀は平成五年二月九日に症状固定と診断され、四肢筋力低下、知覚障害、膀胱障害、歩行障害の各自覚症状、第五頸髄節以下の筋力不全麻痺、第八頸髄筋以下の筋力の完全麻痺、四肢腱反射亢進、胸部及び上腕以下の知覚脱失の各他覚所見を伴った頸髄損傷と診断され(甲二)、被告会社の加入する自賠責保険へ後遺障害保険金の被害者請求をした結果、後遺障害等級一級三号と認定された(甲六一、七一、弁論の全趣旨)。

5  原告麻紀の損害(争いのない分)

(一) 治療費 合計 七一二万〇三五三円

(内訳)

大阪大学医学部付属病院 一四〇万四一六二円

緑風会病院 六六万八五四一円

星ヶ丘厚生年金病院 一九万一二五〇円

大阪市等からの求償分 四八五万六四一〇円

(二) 職業付添費 四〇二万四二〇八円

6  損害のてん補

原告麻紀は、被告会社加入の任意保険、自賠責保険及び鳥本加入の自賠責保険より合計六八六一万八一九四円の支払いを受けた。

二  争点

1  本件事故態様、被告野村の過失及び被害者側の過失

(原告らの主張)

本件事故態様は、被害車両が本件事故発生場所付近の対向二車線の道路を西から東に向かって走行し、信号機の設置されていない本件交差点に進入した際、加害車両が一旦停止の標識を無視し、時速四〇から四五キロメートルで本件交差点を直進しようとしてその前部を被害車両左前部に衝突させたというものである。したがって、本件事故は被告野村の一方的過失によって発生したものであることは明らかである。

(被告の反論及び主張)

被告野村は、低速度で、かつ減速を行って本件交差点に進入した。本件事故は鳥本が交差道路から進行してくる加害車両に意を払わず、かつ、減速も行わず、しかもその上に制限速度を二〇キロメートルもオーバーする速度で本件交差点に進入した過失によって発生させたものである。鳥本と原告麻紀との間には身分上、生活関係上一体というべき関係があるので、鳥本の右過失を被害者側の過失として斟酌すべきである。

2  過失相殺

(被告らの主張)

原告麻紀は本件事故当時、被害車両の後部座席に横臥していたか、あるいは助手席の後ろの後部座席で背中を浮かし、助手席の背もたれに腕を乗せるという姿勢で乗車したのであるが、かかる不自然な乗車姿勢及び原告麻紀のシートベルト不装着が原告麻紀の損害を拡大させる結果になったことは明らかである。したがって、原告らの損害については大幅な過失相殺がなされるべきである。

(原告らの反論)

原告麻紀は、本件事故当時座席に横臥してはいない。かりにそうであるとしても本件事故発生との関係で原告麻紀の乗車姿勢及びシートベルト不装着が原告麻紀の過失を基礎づける事情にはなり得ない。

3  好意同乗減額

(被告らの主張)

原告麻紀は、夜間、鳥本に何度も電話をかけて呼び出し、自分を病院に運ばせようとした。鳥本は、子供の世話もあったが、原告麻紀から何度も電話で呼び出されたことから、やむなく子供を預け、原告麻紀の所に赴いたものである。以上の事実から、原告麻紀に対しては大幅な好意同乗減額を行う必要があるものといわねばならない。このことは、信義則上被告らに対する関係でも同様である。

4  原告麻紀の損害(原告麻紀の主張)

(一) 入院雑費 四五万五〇〇〇円

入院期間三五〇日間にわたり、一日当たり一三〇〇円が相当である。

(二) 衛生関係費 一二万一二六九円

おむつ、おしめカバー等、退院後も必要なもので入院雑費の概念から外れたものであり、実費である。

(三) 母親付添費 一五万七五〇〇円

原告麻紀の入院中、職業付添人が付き添いできなかった三五日は、原告多喜子が付き添った。その費用として一日あたり四五〇〇円が相当である。

(四) 交通費 合計三万三五〇〇円

(1) 本件事故直後原告麻紀が阪大病院特殊救急部に入院中、原告多喜子が通院に要した交通費として一万六一六〇円

(2) 星ヶ丘厚生年金病院の入院予約の手続のため、原告多喜子が同病院に通ったときに要した費用として二一八〇円

(3) 原告麻紀が緑風会病院から星ヶ丘厚生年金病院へ転院した際に要した費用として一万二九二〇円

(4) 原告麻紀が緑風会病院に入院中、職業付添婦が要した通院費用として二二四〇円

(五) 介護用具費 一二五万一五三〇円

(内訳)

(1) 介護用ベッド 三八万五八三〇円

(2) キャスター 二万四二一〇円

(3) シャワー用ニュースカール 一〇万〇九四〇円

(4) アーチ式パートナー 六一万一八〇〇円

(5) 右追加分 一二万八七五〇円

(六) 将来の介護用具費 三五一万五一七二円

右(五)で主張した介護用具は将来的に交換を要するものである。そしてその償却期間は一〇年であるので、右(五)記載の金額を一〇で除して、原告麻紀の症状固定時の平均余命六三・四二に対応する新ホフマン係数二八・〇八七を乗じて算出した三五一万五一七二円が原告麻紀の将来の介護用具費として相当である。

(七) 自宅改造費 九三七万三六二三円

(八) 引越代 一五万二四〇〇円

(九) 賃料差額 五四万円

(一〇) 将来の介護費 九四八一万三二八六円

原告麻紀は、本件事故により終生介護を必要とする状態になり、その介護には原告多喜子が当たらなければならない。原告麻紀の症状固定時原告多喜子は五一歳であり、事故前は有職の女性であった。

したがって原告麻紀の将来分の介護費用は、以下の計算式のとおり原告多喜子の賃金センサスによる平均賃金三三七万五七〇〇円(年収)に、原告麻紀の症状固定時の平均余命である六三・四二年の期間に対応する新ホフマン係数を乗じた九四八一万三二八六円が相当である。

(一一) 自宅療養必要費 四〇五万九六九五円

原告麻紀は、自宅療養において、おむつ、おむつカバー、カテーテル等が終生必要であるが、その費用は一日当たり金三九六円を下らない。そこで、右費用の一年分である一四万四五四〇円に原告麻紀の症状固定時の平均余命である六三・四二年の期間に対応する新ホフマン係数を乗じた四〇五万九六九五円が原告麻紀の自宅療養必要費として相当である。

(一二) 車両代 三一八万七〇三二円

原告麻紀が通院等の外出をするためには、車いすを積める乗用車が必要である。原告多喜子は平成四年一二月二六日に代金二二六万九四〇〇円で車両を購入したが、原告麻紀は右車両の運行による利益の二分の一を受けている。また、自動車は一〇年ごとに買換えが必要である。したがって、右車両価格に二分の一と一〇分の一を乗じ、さらに症状固定時の原告麻紀の平均余命に対応する新ホフマン係数を乗じた三一八万七〇三二円が車両代として相当である。

(一三) 休業損害 一四二万九一五〇円

原告麻紀は、高校卒業後平成四年四月一日からは、(株)ナカノ本店に就職することが決まっていたところ、本件事故に遭遇した。原告麻紀の勤務予定先の支払予定給与は、基本給一二万五〇〇〇円、皆勤手当三〇〇〇円、食事補助手当が一出勤日当たり四〇〇円であり、原告麻紀の勤務開始予定日である平成四年四月一日から症状固定日である同五年二月九日までは三一五日である。原告麻紀は本件事故がなければ一か月二五日皆勤したものと考えられるので、原告麻紀の休業損害は、以下の計算式のとおり一四二万九一五〇円となる。

(計算式) 125,000+3,000+400×25=138,000

138,000×12÷365×315=1,429,150

(一四) 後遺障害逸失利益 四六八九万三七〇六円

原告麻紀は平成五年二月九日に症状固定(症状固定時一九歳)したが、原告麻紀は本件事故により後遺障害等級一級の後遺障害を残し、その労働能力を通年にわたり一〇〇パーセント喪失した。そこで、原告の後遺障害逸失利益は、平成三年の賃金センサス(産業計・企業規模計・女子労働者・新高卒・一八歳から一九歳)の平均給与額(年収)一九四万三七〇〇円に就労可能年数である四八年間の新ホフマン係数二四・一二六を乗じた四六八九万三七〇六円が相当である。

(一五) 傷害慰謝料 三〇〇万円

(一六) 後遺障害慰謝料 二四〇〇万円

(一七) 弁護士費用 三一二万三九一三円

5  原告多喜子の損害(原告多喜子の主張)

(一) 慰謝料 六〇〇万円

女手一つで育てた娘が、就職直前に本件事故に遭遇し、終生寝たきりとなり、自ら一人で介護をしなければならない母親である原告多喜子の慰謝料は右金額を下らない。

(二) 弁護士費用 六〇万円

第三当裁判所の判断

一  争点1(本件事故態様、被告野村の過失及び被害者側の過失)について

1  前記争いのない事実等(第二の一)、証拠(甲五五ないし六五、六七ないし七二、七四ないし九九、一一九、検甲一ないし二六、乙一ないし六、検乙一、二、証人西村こと金慶植、被告野村本人、弁論の全趣旨)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件事故に至る経緯

(1) 本件事故当日は、被告野村の勤務先である被告会社の月例の慰労会が大阪市平野区加美北九丁目三番三四号所在の居酒屋「松」において催され、被告野村は、午後六時二〇分ころから、上司や同僚ら二四、五人とともにチューハイを注文するなどして飲食をした。そして、午後九時五〇分ころ同店を出る際に、被告野村は、一緒にいた西村こと金慶植(以下「西村」という。)から頼まれて、加害車両を運転して西村を八尾市竹渕西三丁目一二三番地所在の被告会社の工場まで送っていくことにした。そこで、被告野村は、西村を加害車両の助手席に同乗させ、右工場へ向けて走行を開始した。

(2) 一方、原告麻紀は、本件事故当日のアルバイト中に体調が悪くなり、帰宅後鳥本に数回電話をした。鳥本は、原告麻紀が寒気等を訴えるので原告麻紀を病院に連れていくこととし、鳥本の自宅から被害車両を運転して大阪市平野区平野元町七番二二号所在の原告ら宅に原告麻紀を迎えに行き、同日午後九時四〇分ころ原告麻紀を被害車両の助手席側後部座席に乗せて、原告ら宅を出発した。

(二) 事故現場の状況

(1) 本件事故発生現場の概況は、別紙交通事故現場の概況(三)現場見取図(以下「別紙図面」という。)のとおりである。現場は、東西に延びる歩車道の区別のある片側一車線の道路(歩道部分を除く幅員約七・三メートル。以下「東西道路」という。)とこれとほぼ直角に交わる南北に延びる西側部分にだけ歩道の設置されている道路(歩道部分を除く幅員約六メートル。以下「南北道路」という。)とによって形成されている、信号機による交通整理の行われていない交差点(以下「本件交差点」という。)であり、東西道路が優先道路である。南北道路は、本件交差点から南は北行一方通行となっている。

(2) 南北道路の本件交差点北側に面した交差点入口付近には停止線が引かれ、また、道路西側には一時停止の標識も設置されていた。なお、右標識のすぐ裏側には水銀灯が設置されているため、北側から進行してくる車両の運転者にとっては、右標識が一瞬見えにくくなることはあるが、その一瞬を除けば、本件交差点の五〇ないし七〇メートル手前から右標識の存在は容易に確認することができた。

(3) 本件交差点の北西角には、塀のある民家があるため南北道路を南下してくる車両からの東西道路を東進してくる車両に対する見通しはもともと悪い。その上、本件事故当日は降雨のため、見通しがさらに悪かった。

(三) 事故の状況

(1) 被告野村は、加害車両を運転して南北道路を時速約四〇キロで南下して本件交差点付近に至った。本件交差点の手前にさしかかり、被告野村は、本件交差点はもっと先の方にあるのではないかと勘違いしていたこと及び同乗していた西村との話に夢中になり注意力が散漫になっていたことから、本件交差点の存在に気づかず、また前記一時停止の標識にも気づかないままアクセルペダルから足を離したのみで殆ど減速せずに本件交差点に進入し、折から東西道路を東進してきた被害車両の左側面に自車前部を衝突させて被害車両を右斜めに暴走させ、その際東西道路を西進してきた訴外松本等運転の車両前部に被害車両の右側面を衝突させ、自車が被害車両と衝突した反動により半回転して自車左後部に松本等運転車両右前部を衝突させた。

(2) この点被告らは、被告野村がアクセルペダルから足を離したことによりエンジンブレーキがかかるので、衝突時には少なくとも時速三〇キロメートル程度にまで減速していたはずであると主張するが、被告らの主張の根拠になっている「実況見分調書」(乙第六号証)記載の実験は、本件事故当時とギアなどの車両の状態、路面の状況等の条件が同一といえるかどうか疑問であり直ちに信用することができない。したがって、乙第六号証中の「実況見分調書」の記載は、前記認定の妨げになるものではない。

2  以上の事実からすれば、本件事故は、被告野村が南北道路を南下走行中前方を注視せず、本件交差点に進入するに際して一時停止の規制があるのに一時停止せず、優先道路を走行して来る被害車両の動静に注意を払わなかったという被告野村の過失によって発生したものと認められる。

3  なお、被告らは、原告麻紀と鳥本とは、身分上、生活関係上一体関係にあるので、鳥本の過失を被害者側の過失として考慮すべきである旨主張する。しかしながら証拠(甲九二、原告多喜子、弁論の全趣旨)によれば、本件事故当時、原告麻紀と鳥本とは別居しており、生計も別個であったことが認められるところ、そうだとすると、原告麻紀と鳥本が姉妹であったといっても、原告麻紀と鳥本との間に身分上、生活関係上一体関係にあったということはできないといわざるを得ない。したがって、かりに本件事故発生につき鳥本に何らかの過失が認められるとしても、それを被害者側の過失として原告らの損害額の算定に当たりしんしゃくすることはできないというべきである。

被告らはさらに、同乗者の利益のためにのみ車両の運行が行われていた場合には、身分上、生活関係上の一体関係の有無に関係なく被害者側の過失の法理を適用すべきであると主張するもののようである。しかしながら、不法行為に基づく損害賠償額を定めるに当たり、被害者と身分上、生活関係上一体を成すとみることができない者の過失を被害者側の過失としてしんしゃくすることが許されないことは、確立した判例であり(最高裁判所昭和四七年(オ)第四五七号同五一年三月二五日第一小法廷判決、同裁判所平成六年(オ)第九四〇号同九年九月九日第三小法廷判決参照)、被告らの主張は、独自の見解でありとうてい採用することができない。

二  争点2(過失相殺)について

1(一)  被告らは、原告麻紀が本件事故当時後部座席で横になっていたあるいは背もたれから背中を浮かせていたという乗車姿勢が原告麻紀の損害を拡大させる一因になったとして、原告らの損害について過失相殺を適用すべきであると主張する。しかしながら右の被告らの主張は以下のとおり採用することができない。

(二)  すなわち、証拠(乙三、四、弁論の全趣旨)によると、原告麻紀は本件事故当時体調不良を訴え、鳥本によって病院に連れて行かれる途中であったこと、吐き気を催したときのためにビニール袋を用意して被害車両に同乗していたことが認められるところ、このような状況であることに照らせば、かりに原告麻紀が被告らが主張するような乗車姿勢をとっていたとしても、それを不適切と評価することはできないといわざるを得ない。したがって、原告麻紀の乗車姿勢を過失相殺の基礎事情として損害賠償額の算定に当たり考慮することはできないと解される。

2  さらに被告らは、原告麻紀が本件事故当時シートベルトを装着していなかったとして過失相殺を主張するが、後部座席に同乗中の者のシートベルト不装着については、その装着が一般化し、社会的にみて常識的になっているとまではいえないので右事情をもって過失相殺の評価の根拠事情とすることはできないと解される。したがって、被告らの主張は理由がない。

三  争点3(好意同乗減額)について

被告らは、原告麻紀が被害車両に同乗するに至った経緯に照らし、鳥本に対する関係でのみならず被告らとの関係においても好意同乗減額をするべきであると主張するが、いわゆる好意同乗減額は、好意あるいは無償性という要素を賠償額の算定に当たり考慮するものであるから、同乗していた車両の運転者と同乗者の関係で問題とされるものではあっても、特段の事情のない限り事故の相手方車両との関係では問題となり得ないものと解される。したがって、特段の事情の認められない本件においては被告らの主張を採用することはできない。

四  争点4(原告麻紀の損害)について(円未満切り捨て)

1  入院雑費 四五万五〇〇〇円

入院期間三五〇日間にわたり、一日当たり一三〇〇円をもって相当と認める (原告麻紀主張のとおり。)。

2  衛生関係費 一二万一二三三円

前記争いのない事実等、証拠(甲三三1ないし13、甲四三1ないし43、原告多喜子本人、弁論の全趣旨)によれば、原告麻紀は、入院期間中、おむつ、おしめカバー、リハビリ用ウェットスーツ、カテーテル等入院雑費の概念からは外れるが入院治療及びその後の生活に必要な用品を購入し、そのために一二万一二三三円を支出したことが認められる。右費用は本件事故と相当因果関係を有するものであると解されるから、原告麻紀の衛生関係費は右金額をもって相当と認める(原告麻紀主張の額と違うのは、平成四年四月二八日購入のおむつ代が一二〇〇円であると認められるためである。)。

3  近親者付添費 一五万七五〇〇円

証拠(甲一〇八、一〇九1ないし5、乙一九1ないし14、原告多喜子本人、弁論の全趣旨)によれば、原告麻紀の入院期間中、月に一日から三日職業付添人が休む日があったこと、平成四年一二月一八日以降の入院期間については職業付添人の付添はなされなかったこと、原告麻紀の入院期間中少なくとも三五日間は職業付添人のいない日があったこと、右職業付添人のいない日は原告多喜子が原告麻紀の付添にあたったことがそれぞれ認められる。その費用としては、一日あたり四五〇〇円が相当であるから、本件事故と相当因果関係を有する近親者付添費は一五万七五〇〇円をもって相当と認める。

4  交通関係費 合計三万三五〇〇円

前記争いのない事実等(第二の一)、証拠(甲四一1ないし29、四二1ないし6、一〇八、原告多喜子本人、弁論の全趣旨)によれば、原告麻紀は交通関係費として以下の(1)ないし(4)記載のとおりの支出をしたことが認められる。これらに支出については、本件事故と相当因果関係を有するものと解されるので、本件事故と相当因果関係を有する原告麻紀の交通関係費としては、以下の(1)ないし(4)の合計額である三万三五〇〇円が相当であると認める(原告麻紀主張のとおり。)。

(1) 本件事故直後原告麻紀が阪大病院特殊救急部に入院中、原告多喜子が通院に要した交通費として一万六一六〇円

(2) 星ヶ丘厚生年金病院の入院予約の手続のため、原告多喜子が同病院に通ったときに要した費用として二一八〇円

(3) 原告麻紀が緑風会病院から星ヶ丘厚生年金病院へ転院した際に要した費用として一万二九二〇円

(4) 原告麻紀が緑風会病院に入院中、職業付添婦が要した通院費用として二二四〇円

5  介護用具費 一二五万一五三〇円

前記争いのない事実等(第二の一)、証拠(甲二、三六ないし三八、四四ないし四六、五三、一〇八、原告多喜子本人、弁論の全趣旨)によれば、原告麻紀は本件事故により介護を要するようになった事実、そのために原告多喜子は介護用ベッド、ベッドに付けるキャスター、シャワー用ニュースカールをそれぞれ購入し、アーチ式パートナーを設置し、さらにパートナーのアーチを継ぎ足した事実、およびこれらの費用として合計一二五万一五三〇円を支出した事実が認められる。原告麻紀の障害の内容及び程度に照らすと、これらの介護用具の購入、設置等は原告麻紀の介護のために必要なものと解されるから、右支出は本件事故と相当因果関係のあるものと認められる。この点、被告らはベッドのシーツは健常人でも必要であるから損害として計上するのは不合理であると主張するが、本件で原告麻紀が購入したのは、普通のシーツではなく介護用ベッドに対応したシーツであるから(原告多喜子本人)、被告らの主張は前提を欠くものというべきである。

6  将来の介護用具費 三〇四万八七二七円

原告麻紀の症状固定時における平均余命が少なくとも六三年とされていることは当裁判所に顕著な事実であるところ、右5で認定した介護用具の性質に鑑みると一〇年ごとに買換えが必要であると認められ(弁論の全趣旨)、原告麻紀の余命期間と解される約六四年間に少なくとも六回は右5で認定した介護用具の交換の必要があると解するのが相当である。

そうすると、右5で認定された一二五万一五三〇円を基礎として、各交換時期に対応する年五分の割合による中間利息を新ホフマン方式により控除して算出された交換費用の合計額が本件事故と相当因果関係を有する原告麻紀の将来分の介護用具費と解する。したがって、原告麻紀の本件事故と相当因果関係を有する将来の介護用具費は次の計算式のとおり合計三〇四万八七二七円であると認める。

(計算式) 1,251,530×(0.667+0.5+0.4+0.333+0.286+0.25)=3,048,727

7  自宅改造費 八五六万一七一三円

(一) 前記争いのない事実等(第二の一)記載の原告麻紀の後遺障害の内容、程度、証拠(四七、四八、四九1、2、五〇、一〇八、一一〇、原告多喜子本人、弁論の全趣旨)を総合すれば、原告麻紀が介護者一名による介護のみで、原告が現在生活している自宅(鉄筋コンクリート造のいわゆるマンション、以下単に「自宅」という。)における生活を可能とするためには、原告麻紀の後遺障害の内容からみて、頭を洗うなどのために洗面台を新たに取り付けるとともに右自宅の部屋のうちで日当たりの点や介護の利便の点から最も原告麻紀の居室に適している南西角の洋間を原告麻紀の居室とし、そこにインターホン等を設置し、自宅内を原告麻紀が車いすで移動できるように、居室間のドアを自在ドアやハンガードアに替え、車いすで通る場所をタイル張りとする必要があること、さらに浴室の入口を段差のないものに替え、浴室にはバスリフトアンビューといわれる入浴用リフトを取り付けるとともに、浴室自体も拡張する必要があり、そのためには隣接するトイレとの位置を交換し、給排水や電気設備の補修をするなどの工事を行う必要があること、バスリフトアンビューを取り付けた場合には、移乗台及びパワーブースターは不要であること、原告らは洗面台の取付及びタイル貼りの費用として既に一〇六万一七一三円を支出したこと、以上の改造を行うためにはさらに原告らは七五〇万円を下らない支出を要することがそれぞれ認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

(二) この点、被告らは、洗濯機の位置を現在ある位置からベランダに移しさえすれば、改造の必要性はなくなるはずであると主張するが、右認定のように浴室を拡げる必要性がある以上、洗濯機をベランダに移しても自宅改造の必要性は残るものであるし、そもそも洗濯機を現在ある場所からホースでつないでベランダに移して使用することが被告らの主張するように容易になし得るものなのかどうか不明であるから、右被告らの主張は採用できない。

(三) 以上より、原告麻紀の本件事故と相当因果関係を有する自宅改造費は、右の一〇六万一七一三円と七五〇万円の合計額である八五六万一七一三円であると認める。

8  引越代 一五万二四〇〇円

前記争いのない事実等、証拠(甲三九、一〇〇ないし一〇二[枝番含む]、原告多喜子、弁論の全趣旨)によれば、原告らは本件事故当時は大阪市平野区平野元町七―二二の建物(木造三階建てで、二、三階部分に居住部分がある。)に居住していたが、原告麻紀が星ヶ丘厚生年金病院を退院するにあたり、原告麻紀が居住する家は外からベッドサイドまで車いすで出入りすることのできる建物でなければならず、原告麻紀は右自宅へ帰ることは不可能となったこと、原告らは平成四年一一月にとりあえず大阪市住吉区我孫子の賃貸マンションに転居したこと、しかしながら、賃貸マンションでは改造にも限度があり、また将来的なことを考えるといつまでも賃料を払っているわけにもゆかないので、原告らは平成五年一一月に中古分譲マンションに転居したこと、平成四年一一月の引つ越しの際には、原告らは一五万二四〇〇円を支出したことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

右二回の転居のうち、少なくとも平成四年一一月の転居は、本件事故がなければ必要なかったものであるから、右の転居に要した費用は本件事故と相当因果関係を有するものであると解される。したがって、本件事故と相当因果関係を有する原告麻紀の引越代は、一五万二四〇〇円であると認める(原告麻紀主張のとおり。)。

9  賃料差額 五四万円

(一) 前記争いのない事実等(第二の一)、証拠(甲一〇〇ないし一〇二[枝番含む]、原告多喜子、弁論の全趣旨)によれば、原告らが本件事故当時居住していた前記平野区の建物の賃料は一か月あたり二二万円であり、本件事故前は原告多喜子が一階部分でスナックを経営し、家族は二、三階部分に居住していたこと、本件事故後、原告多喜子が常時原告麻紀の介護をしなければならなくなったため、原告多喜子はスナックの経営をあきらめ、一階部分を月額一二万円で転貸するようになったこと、したがって、転居前に居住部分の家賃として支出していた額は月額一〇万円であったこと、転居後の大阪市住吉区我孫子の賃貸マンションの家賃は一四万五〇〇〇円であったこと、右我孫子のマンションには原告らは一二か月間居住したことがそれぞれ認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。この一二か月分の賃料の差額である合計五四万円は、本件事故と相当因果関係を有する原告麻紀の損害というべきである。

(二) この点、被告らは右平野区の建物のうち原告らが転貸していたのは床面積にして三分の一にすぎず、転貸料の一二万円は高額に過ぎるとして、原告らの住居部分の賃料相当額は転居後の我孫子のマンションの賃料である一四万五〇〇〇円を超えるものであったと主張する。しかしながら、建物の賃料は床面積だけで決まるものではない上、転貸部分は一階でかつ店舗であることから建物の他の部分よりも使用価値が高い部分であることも考え併せるならば転貸料一二万円が特に高額であるとはいえない。したがって、被告らの主張は採用できない。

10  将来の介護費 七九三五万九〇三〇円

(一) 前記争いのない事実等(第二の一)、証拠(甲二、六一、九二、一〇八、一一三、乙四、原告多喜子、弁論の全趣旨)によれば、原告麻紀は本件事故により第五頸髄節以下の不全麻痺、第八頸髄節以下の完全麻痺等の症状を伴う頸髄損傷の後遺障害を残したこと、そのため原告麻紀の身体は手足の自由が利かない状態であり、食事、入浴、排便などの日常動作には常に介助を要するほか、夜間には床ずれができないように体の位置を交換してもらう必要があり、外出の際には必ず付添人が付き添わなければならないこと、平成五年一月の原告麻紀の退院後は母親である原告多喜子が介護に当たっていること、鳥本は原告らとは別居していること、原告麻紀は症状固定時一九歳であったこと、原告多喜子は原告麻紀の症状固定当時五一歳であったことがそれぞれ認められる。一九歳の者の平均余命が少なくとも六三年とされていることは当裁判所に顕著な事実であり、原告麻紀には今後の平均余命期間の生存に疑問を投げかけるような徴候はないのであるから、原告麻紀は症状固定後少なくとも六三年間は介護を要するものと認められる。そして、右介護に要する労力等を勘案すると、この先原告多喜子が六七歳になるまでの間は原告多喜子の付添介護を期待することができるとしても、その先については職業付添人による介護を受けざるを得ないものと認められる。

(二) 以上の事実からすると、原告麻紀は症状固定時から母親が六七歳になる一六年間は母親による付添介護を受ける必要があり、その後四八年間については職業付添人の介護を要するものと認められる。原告麻紀の生活のために介護用具が備えられ、自宅を改造していること(前記認定のとおり)、週一、二回程度は鳥本が介護を手伝っていること(甲一〇八、原告多喜子本人)、原告麻紀の過去の職業付添の実績等に照らすと、母親の介護費用としては一日当たり四五〇〇円が相当であり、職業付添人の介護費用としては一日当たり一万円が相当である。以上を基礎に、母親が付き添う一六年間についての中間利息及びその後の四八年間についての中間利息をそれぞれ新ホフマン方式によって控除して原告麻紀の将来分の介護費の現価を算定するとすると以下の計算式のとおり七九三五万九〇三〇円となる。

(計算式) 4,500×365×11.536+10,000×365×(28.087-11.536)=79,359,030

11  自宅療養必要費 四〇五万九六九四円

前記争いのない事実等(第二の一)、証拠(甲二、三三1ないし13、四三1ないし43、五二1ないし9、一〇三1ないし3、一〇八、乙四、一五、原告多喜子本人、弁論の全趣旨)によれば、原告麻紀は、自宅療養において、別紙「自宅療養必要品表」記載のバスタオル、おねしょシーツ等が終生必要であること、その費用は一日当たり三九六円であること、右費用は本件事故と相当因果関係を有するものであることがそれぞれ認められる。この点、被告らはおねしょシーツ、前あきショーツ、ゴム手袋についてその必要性がない、あるいは原告主張のような頻度で買換える必要がないと主張する。しかしながら、原告多喜子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、右別紙「自宅療養必要品表」の記載は、原告多喜子が、実際に原告麻紀の介護をしている経験を基にして作成されたものであることが認められるのであって、被告らの右主張は具体的な根拠を欠くものといわざるを得ず、採用することができない。

原告麻紀の症状固定時の平均余命が少なくとも六三年とされていることは当裁判所に顕著な事実であるので、右三九六円の一年分である一四万四五四〇円を基礎として原告麻紀の平均余命に対応する期間の中間利息を新ホフマン方式によって控除して原告麻紀の自宅療養必要費の現価を算出すると、次の計算式のとおり四〇五万九六九四円となる。

(計算式) 396×365×28.087=4,059,694

12  車両代 一三七万四四〇〇円

(一) 前記争いのない事実等、証拠(甲四〇、一〇八、一一一、原告多喜子本人、弁論の全趣旨)によれば、原告麻紀はいわゆる全介助の状態であり通院等の遠方への外出をするためには車いすを積める乗用車が必要であること、通院にタクシーを用いると一回につき一万円以上を要すること、原告多喜子は本件事故後運転免許を取得したこと、平成四年一二月一六日に二二六万九四〇〇円で新車を購入したことが認められるところ、原告麻紀の後遺障害の内容及び自動車を購入することにより家族の便にも資すること(原告多喜子本人)に鑑みると、一回の新車購入に要する費用のうち被告らに負担させるべき金額としては、四〇万円が相当である。被告らはこの点、現代のようなモーターリゼーションの時代においては本件事故がなくても原告麻紀が自動車を購入することは確実であるとして、自動車購入費用は本件事故と相当因果関係がないと主張するが、このような事故がない場合に、原告麻紀に車いすを積めるような乗用車を購入する見込があったとは到底いえないのであるから、被告らの主張は採用できない。

(二) 自家用乗用車の法定耐用年数が六年とされていることは当裁判所に顕著であるところ、原告らの自動車の使用状況に照らすと一〇年ごとに買換えが必要であると認められ、右の購入車両のほかに、原告麻紀の余命期間と解される約六三年間に少なくとも六回は新車購入の必要があると解するのが相当である。

(三) そうすると、既に支出した車両購入費のうち四〇万円、及び将来分として右四〇万円を基礎として、各車両購入期に対応する年五分の割合による中間利息を新ホフマン方式により控除して算出された車両代の合計額が本件事故と相当因果関係を有する原告麻紀の車両代となると解する。したがって原告麻紀の本件事故と相当因果関係を有する車両代は次の計算式のとおり合計一三七万四四〇〇円となる。

(計算式) 400,000+400,000×(0.667+0.5+0.4+0.333+0.286+0.25)=1,374,400

13  休業損害 一四二万九一五〇円

前記争いのない事実等、証拠(甲九二、乙四、七、弁論の全趣旨)によれば原告麻紀は、本件事故後、症状固定した平成五年二月九日までの間は治療のため就業することができなかったこと、本件事故がなければ高校卒業後遅くとも平成四年四月一日には株式会社中野本店に就職することが決まっていたこと、右勤務予定先の支払予定給与は、基本給一二万五〇〇〇円、皆勤手当三〇〇〇円、食事補助手当が一出勤日当たり四〇〇円であることが認められる。原告麻紀は本件事故がなければ、一か月二五日皆勤したものと認めるのが相当である(弁論の全趣旨)ので、原告麻紀の平成四年四月一日以降の月収は次の計算式<1>のとおり一三万八〇〇〇円であると認める。そこで、原告麻紀の休業損害は平成四年四月一日から症状固定日である同五年二月九日までの三一五日間にわたり以下の計算式<2>のとおり一四二万九一五〇円となる(原告主張のとおり)。

(計算式<1>) 125,000+3,000+400×25=138,000

(計算式<2>) 138,000×12÷365×315=1,429,150

14  後遺障害逸失利益 三九九五万二六五六円

前記争いのない事実等、証拠(甲二、一〇八、乙四、原告多喜子本人、弁論の全趣旨)によれば、原告麻紀は平成五年二月九日に症状固定(症状固定時一九歳)となった事実、原告麻紀は本件事故により後遺障害等級一級の後遺障害を残し、その労働能力を就労可能な六七歳までの間にわたり一〇〇パーセント喪失した事実を認めることができる。右第三の五の13認定のとおり平成四年四月一日以降の原告麻紀の月収は一三万八〇〇〇円を下ることはないので、右一三万八〇〇〇円の一二か月分である一六五万六〇〇〇円を基礎年収として、一九歳から六七歳までの四八年間の中間利息を新ホフマン方式によって控除して原告麻紀の本件事故と相当因果関係を有する後遺障害逸失利益を算定すると、以下の計算式のとおり三九九五万二六五六円となる。

(計算式) 1,656,000×24.126=39,952,656

15  入通院慰謝料 三〇〇万円

原告麻紀の傷害の内容、程度、入院の期間、治療の内容等本件弁論に現われた一切の事情を考慮して、右金額をもって相当と認める(原告麻紀主張のとおり。)。

16  後遺障害慰謝料 二四〇〇万円

原告麻紀の後遺障害の内容、程度等本件弁論に現われた一切の事情を考慮して、右金額をもって相当と認める(原告麻紀主張のとおり。)。

17  原告麻紀の損害のまとめ

(一) 小括

以上のとおりであるから、原告麻紀の本件事故と相当因果関係を有する損害(弁護士費用を除く)は、一億六七四九万六五三三円となり、前記争いのない事実等(第二の一)記載の既払金六八六一万八一九四円を控除すると、原告麻紀の損害のうち被告らにてん補させるべき金額は、九八八七万八三三九円となる。

(二) 弁護士費用 三一〇万円

原告麻紀がその権利実現のために、訴訟を提起、遂行するに際し、弁護士を委任したことは当裁判所に顕著な事実であるところ、事案の内容、立証活動の難易、認容額の程度等本件弁論に現われた一切の事情を考慮して、右金額をもって相当と認める。

(三) 合計

右(一)に(二)を加えると、一億〇一九七万八三三九円となる。

五  争点5(原告多喜子の損害)について

1  慰謝料 四八〇万円

原告麻紀の受傷及び後遺障害の内容、程度に鑑みるならば、原告多喜子の精神的苦痛は原告麻紀の死亡の場合に比肩するものであったというのが相当であり、女手一つで育てた娘が、就職直前に本件事故に遭遇し、終生寝たきりとなり、自ら一人で介護をしなければならない状態となったこと等本件弁論に現われた一切の事情を考慮すれば、原告多喜子の慰謝料は右金額をもって相当と認める。

2  弁護士費用 五〇万円

原告多喜子がその権利実現のために、訴訟を提起、遂行するに際し、弁護士を委任したことは当裁判所に顕著な事実であるところ、事案の内容、立証活動の難易、認容額の程度等本件弁論に現われた一切の事情を考慮して、右金額をもって相当と認める。

六  結論

以上のとおり、原告麻紀の請求は、被告らに対して金一億〇一九七万八三三九円及びこれに対する事故日である平成四年一月三一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、原告多喜子の請求は、被告らに対して金五三〇万円及びこれに対する事故日である平成四年一月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるので、主文のとおり判決する。

(裁判官 松本信弘 山口浩司 大須賀寛之)

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